志賀高原に暮らす、そして自費出版について
志賀高原・一の瀬にあるホテル「シャレー志賀」が2024年12月で55周年を迎え、記念誌『志賀高原に暮らす』を出版しました。
創業者である佐藤郁男さん・東子さんが著した文章を、二代目である秀信さん・秀代さんがまとめた一冊。志賀高原に暮らしながら折々に綴ってきたおふたりの文章が素晴らしい。
志賀高原の山や川、そこに生きる動植物、つながる道や登山についての文章は、志賀高原を知るための良き手引きとなります。また、開発と発展、環境汚染の危機と自然保護の取り組みなど、山岳観光地に生きるための多くの教えが含まれます。
秀代さんから自費出版のご相談をいただき、藤原印刷の小池潤さんとの打ち合わせを重ねながら、「せっかくの自費出版なのだから自由に、心から納得いくものを作りましょう」という小池さんの言葉を励みにしつつ、佐藤さんご一家の恐るべき迅速なレスポンスのおかげで無事、発行にこぎつけました。
自費出版の方法はいくつもありますが、一番簡単なのは出版社に原稿を持ち込むことでしょうか。編集や校正の過程が確立されており、流通に乗せるところまで手配してくれます。
ただし、自分たちで売る場合(ISBNコードも不要)、あるいは取次を介さず小売と直取引したり、Amazonでネット販売する場合は、割高になりがちです。
印刷所と直接やり取りする方法もありますが、出版に関する知識がある人でないと難しいかもしれません。
私たち編集者が本を作る場合は、エディトリアルデザイナーと組むことが多いですが、今回は文章主体の本なので、誌面デザインというより文字組みを重視し、藤原印刷さんにDTPからお願いすることにしました。
ちなみにエディトリアルデザインは、雑誌や書籍、カタログやパンフレットなど、おもに紙媒体のデザインを指します。
グラフィックデザインでは文字はデザイン要素のひとつであり、多少読みづらくともビジュアルが優先され、悲しいかな字間や行間、改行位置に配慮が足りないことも多々ある。
グラフィックデザインがいかに見せるかを重視するのに対して、エディトリアルデザインはいかに読ませるかを重視するといえます。
また、紙媒体はWeb媒体に押しやられ気味ですが、ことデザインに関して紙媒体は圧倒的な歴史があり、ノウハウは蓄積され、完成された美しさがあります。Web媒体はデバイスによって見た目が変わり、フォントや文字サイズ、行間や字間も定まらず、成り行き改行が前提です。
藤原印刷はタイピングからはじまったという成り立ちゆえ、さすが組版は美しく読みやすく、部・章・節・項の組み立ても編集意図をよく理解して、的確に表現してくださいました。
内容だけでなく本そのもののを、作り手の意図のままに読み手へ届けることができるのは、本の良さのひとつではないでしょうか。
カバーは、深緑色のラシャ紙に銀の箔押しで、志賀高原のシラビソの森に雪が積もったよう。本紙は、温もりある手触りと再現性の高さが共存するモンテシオン。ふっくらやわらかな質感で、厚みがあるのに軽い造りです。
ぜひ手にとっていただきたいです。ご希望の方はシャレー志賀の公式オンラインショップをご利用ください。
(塚田記)
志賀高原に暮らす
2024年12月1日発行
著 者|佐藤郁男 佐藤東子
編集者|塚田結子(編集室いとぐち)
発行者|佐藤秀信 佐藤秀代
発行所|シャレー志賀
印刷所|藤原印刷株式会社
担当者|小池 潤