シンビズムの軌跡
年明けから年度末にかけて、編集として参加し制作してきた書籍ができあがりました。
長野県芸術監督団事業の「美術分野」の事業として行われた6年間に渡る「シンビズム」の軌跡をまとめたものです。
シンビズムとは、「信州の美術の主義」「新しい美術」「真の美術」「親しい美術」という意味が込められた造語。6年間で4回、15会場で行われた展示会の名称として生まれた言葉です。展示では長野県ゆかりの65名の作家さんの作品を紹介してきました。この展示、長野県関係の学芸員のみなさんが主体となり、それぞれ勤め先は違えどひとつのチームをつくって取り組んでこられたものです。
長野県は美術館・博物館などの総数が全国一を誇ります。その一方で1館にひとりしか学芸員がいなかったりと、さまざまな課題もあります。書籍「シンビズムの軌跡」は、そうした背景を浮き彫りにしながら、この事業の概要、学芸員さんの思い、作家さんの思いなどを綴り、果たした意義についてまとめたものです。
事業を率いてこられたのは本江邦夫さん。残念なことに事業の途中で急逝されてしまいましたが、本江監督の思いをしっかりと心にとめて、学芸員のみなさんがより強くまとまり、確固とした意志をもって歩まれてきたことがひしひしと伝わります。
そして、ご寄稿いただいた信州大学の金井先生の「課題や目標は多々あげられようがともあれ我々シンビズムははじまったばかりなのだ」という力強い言葉や、武蔵野美術大学の三澤先生がシンビズムが取り組むべき次のミッションに言及してくださっていることなど、シンビズムへの叱咤激励に深い愛情を感じました。
展覧会として生まれた「シンビズム」という言葉ですが、今や学芸員集団そのものをも指し示しています。
書籍のなかでも多くの方がそうおっしゃっていますが、わたし自身も、6年間、図録の仕事をお手伝いするなかで確かに感じてきました。
活動の積み重ねによって、言葉(名称)が持つ意味が育まれていく。大きく芽を伸ばし葉を広げて成長するというよりは、深く根を張るイメージ。すてきなことだと思いました。
誰もが手に取って「おもしろい!」と思う本とは違い、美術関係の方などが手に取るものなのかもしれません。でも、この展覧会を観に行かれなかったアート好きな方が読んでくださったら「知っていたら絶対行きたかった!」と思うはず。観に行かれた方は、その背景を改めて知ることで、ご覧になった展示が何倍ものパワーをもってみえてくるとも思います。そもそもがすごいパワーを放つ展示会ばかりだったのに、なお、です。
そして、シンビズムはすでに新しい歩みをはじめつつあり、それはこれからも形を変えたとしても続いていくはずです。そのはじまりとなった6年間を1冊の〝残る〟形にできたことは、編集の仕事をしていてとてもうれしいことです。
壮絶な制作体制ではありましたが、やはり本が生まれるとうれしさのほうが遥かにまさって、正直、壮絶さは1%くらいしか思い出せません。
喉元過ぎれば熱さ忘れる。こうしてまた次の仕事をするのだから、うまくできていると思うのです。(緒)
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「シンビズムの軌跡
信州ミュージアム・ネットワークが生んだアートプロジェクト」
企画|一般財団法人長野県文化振興事業団
構成|伊藤羊子(一般財団法人長野県文化振興事業団)
編集|山口美緒(編集室いとぐち)
ブックデザイン|中沢定幸(中沢デザイン事務所)
写真|大井川茂兵衛(株式会社Hi-Bush)*会場写真、一部作家より提供
発行|信濃毎日新聞社
信濃毎日新聞社様より発売されています。
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