103歳、大往生


 
松本にある大信州酒造さんへ、パンフレットの改訂増刷の打ち合わせへ。ありがたいことに冊子は8刷目、リーフレットは11刷目を数えるまでに。想像を越えて多用していただいて本当につくりがいがあるというものです。「誰かにすぐ自慢したくなってすぐ配っちゃうんだよね」と田中社長。うれしい。
  
さて、豊野にあった蔵をこの春で閉じた大信州さん。松本本社の敷地に新しく蔵をつくっていましたが、今回は新蔵が竣工となってから初の打ち合わせ。想像をはるかに超える建物の規模に、思わず「わーっ!」と、声が出ました。 この冬からの造りがとっても楽しみ。
 
そんな新しいスタートの裏では悲しいこともありまして。田中社長をはじめ大信州のみなさんが「おやっさ」と慕ってきた大杜氏の下原多津栄さんが、この8月に103歳で永眠されました。パンフレットの制作用に田中社長が下原大杜氏のことを熱心に語る様子は忘れられません。ほかのどのお話しより長く、熱く、丁寧に、大杜氏を表現するのに最も適切な言葉を何度も何度も選び直していらっしゃいました。
 
そうして綴った文章を、弔辞で読まれたそうです。
でも、言葉にならなかったと。
 
社長に就任する以前、これまで通りではだめだと、今の大信州の礎をつくるべく大きな変革をしようとしたとき、一緒に戦ってくれたのが大杜氏だったそう。おやっさがやろうと言ってくれたから…という言葉を何度も聞き、尊敬という言葉では足りない思いを、取材や打ち合わせの端々で感じました。 
 
103歳。
 
一般的には大往生。でも、その言葉で整理のつかない気持ちもある。おふたかたがともに歩んだ道のりに改めて思いをはせる松本からの帰途でした。(緒)