春の味、先生の味、菌の味
少し前に、大学時代の恩師と一献を交わしました。先生が長野に出張の折、わたしが東京に出張の折、時間が合えばお酒を飲みがてらごはんにでかけます。本当にだめな学生だったわたしに、進む先に出版はどうだとおっしゃってくださったのは先生。お前の日本語はいつになってもだめだと怒られっぱなしですが、今この場所にいることを選べた大きな理由のひとつに、先生の存在があります。
先生は衝撃的にグルメで、衝撃的に料理の上手なかた。大学時代、研究室のクリスマス会では毎年学生全員ご自宅に招いて手料理をごちそうしてくださったし(料理人じゃない人で普通にクスクスを作る人がいることをそのときはじめて知りました)、論文を抱えて年末年始の境なく研究室に詰める学生に、とってもおいしいおせち料理を差し入れてくださいました。ゼミの飲み会は、学生とは思えないくらい値段よりも〝おいしい〟が基準でお店が決まっていた気がします。
そんな先生と、春を前に春の味覚に思いを馳せながら飲みまして。ふきのとうなら、うどなら…と、ひと盛り上がりしたのです。
というわけで、先生に庭のふきのとうをお送りしたら、先生からうどが…!
1本あたり1.2mくらい?長くて太くて真っ白なうど。わたしはただただ庭のふきのとうを摘んで送っただけなので、海老で鯛をいただいてしまった気持ち。うどの生産者はこちらのかた。先生がお仕事で関わっているそう。わたしは研究室のなかでも極めてアウトローな心象風景の研究をしていましたが、研究室では都市農地の研究が大切なテーマ。今回いただいたうども、その延長にある大切な東京・国分寺の農産物です。サイトを拝見しただけですが、下手な地方よりも豊かな農業文化が息づいているのかもしれないと思いました。
ひとまず、その日の夕食はうどと青さとぶりのかき揚げにうどとお揚げのお味噌汁。翌日以降のために、梅甘酢漬け、酒粕漬け、肉巻き、むいた皮はきんぴらに。ぜいたくだなあと茶色っぽい食卓を満喫していたら、先生から、「私のおすすめレシピはウドのフキノトウ味噌和えです!ウド以外には、ホタテやエビの刺身、ワカメ、菜の花なんかを一緒にすると、なお美味」「あと、ウドとセロリ、タケノコ、鶏ささみを茹でて割いたものを、マヨネーズと生クリーム、マスタード、レモン汁で作ったソースで合えるのも美味」とメール。
な、なんとおしゃれな! つい日本酒に走りがちな晩酌ですが、和の食材もワインに合いそうな料理になるんだなあ。次こそは! と誓った、春浅い夕暮れ。…しかし浅いと思っていた春ですが、すでに裏庭の紅梅は七分咲きです。(緒)
写真は翌日。塩麹をまぶしたうどの豚肉巻き、うどのきんぴらと納豆のだし巻き卵、ほうれん草と新玉ねぎの蕗味噌和え、真澄のあらばしり、写ってないけど締めはすんき漬け入りのお豆腐のお味噌汁。うど・ふきという春の味覚と、乳酸菌・麹菌・納豆菌・味噌醤油日本酒の多様な酵母など信州の菌をどっさり…ウイルスと年度末に勝ちたいと、毎日必死。(…しかも結局茶色い。おいしいかったけど)