秋と菊と、ひやおろし

急激に秋が濃さをまし、見上げればいわし雲。
塚田の出そうで出ないくしゃみが気になりすぎる、秋の始まりの頃。
そんな季節の花のなかで一等好みなのは菊です。
 
吾亦紅も、秋明菊も、金木犀も好きですが、菊が好みです。秋に限らず、一番好きな花。佇まいの美しさと共存するはかなさが、とても好み。伊藤左千夫の『野菊の墓』の強くはかなくだからこそ鮮烈なイメージも強いのかもしれません。その感覚とはちょっと異なるのですが、善光寺の菊花展は毎年楽しみにしています。菊を愛でる人が熱を注ぐ様が興味深くて、期間中に何度か足を運びます。
 
そう、9月9日は重陽の節句でした。いわゆる、菊の節句。
旧暦でいうと、現代の季節感覚ではもうひと月先になるのですが、まあ、それはさておき。日本酒に菊の花を浮かべて酌み交わしたり、菊に降りた露を綿に染み込ませて身体を清めたり、長寿を祈る風習があるそうです。

日本酒にまつわる風習があるこの日に発売になるのが「ひやおろし」。厳密に言うとさまざまなルールがあるのですが、ざっくり言うと、厳寒期に醸された日本酒がひと夏を超えて適切な管理のもと熟成され、味わいを増したのが「ひやおろし」です。いとぐちでは、真澄(宮坂醸造、諏訪市)さんの折々の季節のお酒の広告に携わらせていただいています。
コピーに書いた通り、菊花はもちろん、すすき、藤袴、それに加えて鶏頭などなど。頼りのお花屋さん「つぼみ」さんでご用意いただいた秋の花を添えました。
 
「ときに温めて秋の夜のいろどり」
書いたそのときは酷暑のさなかでしたが、そんな風景がよく似合う季節がやって来ました。新酒のしらせが届く冬のはじまりまでの短い間、秋の酒、ひやおろしを嗜む時間です。(緒)
  

宮坂醸造様ひやおろし新聞広告2018

(編集執筆|山口美緒、写真|平松マキ、デザイン|渋沢恵美)